リセット

雑文

 歩き続けることは大切だがときには立ち止まってみることも大切だ。

 私はいま、迷路の中にいるようだ。

 進路がまったく分からない。

 あっちかな? こっちかな? と歩いて、行き止まりにぶち当たっている。

 複雑に思える迷路も、俯瞰して見れば簡単なものだったりする。

 人生も、もしかしたらそうなのかもしれない。

 私はいま、彷徨っているが、進むべき道はちゃんとあるのかもしれない。

 ただ、それに気がつかないだけで。

 今日は、なんとなく自分をリセットしたかった。

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 昨日仕事が終わったあと、いきつけの美容室に予約の電話を入れた。

 髪を切って、スッキリしたかったのだ。

 まったく思い通りにならない「くせっ毛」は、まるでいまの自分の象徴のようだった。

 うねっている髪の毛をバッサリと切って、「いやなもの」を自分の体から除外したかった。

 お昼の12時に予約を入れた。

 午前の10時半に家を出て、車で向かう。

 ガムをふた粒口に入れて、音楽をかけて国道414号線を北上する。

 途中、いつも出勤前に寄るコンビニで休憩をした。

 冷たい缶コーヒーを買い、煙草に火を点ける。

 空は青く、陽の光があたたかい。風も強くなく、気持ちの良い天気だった。

 休憩が終わると、再び車を走らせた。

 駅前の立体駐車場に車を止める。

 このビルの3階に美容室はある。

 エレベーターに乗って③を押した。

 扉が開き、外へ出る。

 お店に行く前にトイレに寄った。

 用を済ませてお店へ向かう。

 ガラス扉の向こうには知った顔があった。

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「長さはどうします?」

「けっこう短めにしてください」

「んー」

 美容師さんが男性向けのヘアカタログを持ってきて話し合った。

 短くしたいけれど、私の頭の左右には傷跡があってそこだけ髪の毛が生えていない。

 なので短くしすぎると目立つしぴょこんと上の髪が跳ね上がる。

 そのことを美容師さんは知っているので、おおまかなヘアスタイルを決めた上で長さを調整すると言った。

 シャンプーを受けながら軽く世間話をした。

 あとはおおむねお任せした。

 私はあまりおしゃべりをしないし、雑誌も読まない。

 目をつむってリラックスしていることが多い。

 今日もそうして美容師さんにすべてを委ねた。

 ときどき目を開けて鏡を見る。

 だんだんと私の髪の毛は短くなっていった。

 私は髪を切られながら、このあとマッサージでも受けようかどうか考えていた。

 なんとなく、頭をスッキリしたついでに体も揉みほぐされたかった。

 従業員割引が使えるので、60分やっても3,000円あれば足りるだろう。

 お財布の中には1万円入っていて、カットが6,500円だから足りるはずだ。

 普段ちゃんと施術を受けたいと思いつつなかなか行っていなかった。

 贅沢だが、まあいいだろう、たまには。

「どうでしょうか」

 美容師さんが長方形の鏡を持ちながら聞いてきた。

「はい、ありがとうございます」と、私は言った。

 お会計は5,500円だった。

 前回は6,500円だった気がするが安い分にはラッキーだった。

 お会計を済ませると美容師さんが移転の話をしだした。

 お店が移転するらしい。

 場所が変わってしまうのは少々面倒だったが仕方がない。閉店ではなくて良かった。

 美容師さんは手書きで書いた地図を見せながら説明してくれたけどよく分からなかった。

 さらにその紙の裏面にまた手書きで地図を書き出して回りくどい説明をしだした。

 おおまかな場所と住所さえ分かっていればナビなりグーグルマップで行けるから細かい説明を聞くのは面倒くさかったけれどとりあえず聞いていた。

 10分くらい話を聞いていた。

 なんだか長かった。

 地図を貰ってバッグの中に入れた。

 駐車場へ行き、車に乗り込む。

 自分の職場に電話をして予約を入れた。

 20分くらいで着く。

 1時45分に予約を入れたが1時半にお店に着いた。

 車で待っているのもあれだったのでお店の中に入った。

 受け付けを済ませ、ソファに座る。

 誰がやってくれるのだろう。

 奥から出てきたのはYNさんだった。

 一年前にやってくれたのもYNさんだった。

 なんだか縁がある。

 ブースに案内され、パーカーを脱いだ。

「どこがお疲れですか?」と聞かれたので、「全体的に」と答えた。

 ベッドにうつ伏せになる。

 あとはYNさんに任せた。

 施術を受けながら、ぼんやりと考え事をしていた。

 たいしたことではない。

 地球温暖化についての改善策とか、ガソリンの高騰に対しての国の政策についてとか、日本の上場企業の株価の変動についてとか、そういったことはまったく考えないで、「あ、臀部からやるんだ」とか、「あー、そこ効くなー」とか、どうでもいいことを考えていた。

 左の臀部をやられ、左の腰をやられ、もう一度左の臀部をやられ、左の太ももに移った。

 ずいぶんとダイナミックな施術だと思った。

 私はそんな風にはやらない。

 太ももの裏が少し疲れているようだった。

 ふくらはぎをやられ、「足裏指圧してくれないかなー」と思っていたけれどそこは素通りされ、今度は右の臀部へと移った。

 左右の下半身が終わると、今度は左の背中を手根揉捏された。

 左をやられ、右をやられる。

 もう40分くらい経っているかなと頭の中で計算した。

 できれば肩をじっくりやって欲しいなと思っていたら、また「腰」に移っていた。

 まあいいやと諦めた。

 意外にも肩甲骨まわりもやってくれた。ときどき肩に手が伸びる。

 腕も手のひらも割と気持ちよかった。

 もうそろそろ時間かなと思っていたら「仰向けになって」と言われた。

 意外だった。

 私は60分のコースでは仰向けはやらない。

 なんだか得した気分だった。

 仰向けになる。

 頭をやってくれた。それも割と細かった。参考になるが、盗めそうになかった。

 首もやってくれた。気持ちがいい。

 最後に腕の付け根を揉まれ、60分の揉みほぐしは終わった。

 大きく深い息をつく。

 YNさんにお礼を言った。

 お会計は2,600円だった。通常なら3,500円なのでだいぶ安い。

 お店を出ると、なんだか生き返った気分だった。

 頭はスッキリしたし、久しぶりにちゃんと施術を受けた。

 筋肉も神経もすっかり弛緩したような心地だった。

 車に乗り込み、家に帰った。

 今日は、そんな感じでした。

 リセットしました。

 あとは新しい仕事が見つかれば他に言うことはない。

 

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