同じ日はない

雑文

 2021年12月28日は一度しかない。

 あなたが見る世界は私には見られないし、私が見る世界もあなたには見られない。

 ガラスの向こうに見える景色を見ながら、そんなことを思った。

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 今日はお仕事の日で、ある意味一大イベントがあった。

 それは「180分のもみほぐし」だった。

 一週間以上前からご予約が入っていて、私とTMさんが担当することになっていた。ペアのお客様だ。

 少し考えてみてほしいが、180分もマッサージをするなんてことは日常的にはない。

 こんなご予約が入るのは一年で一度か二度くらいだ。

 お客様は常連様で、いつもは120分のコースを受けている。

 そして、無断キャンセルの常習でもあった。

 だけど今日は「来る」気がした。

 わざわざ180分なんていう超ロングコースを予約したのだ。

「今年の疲れは今年のうちに癒そう」とでも考えているのかもしれない。

 お客様は我々スタッフのことをどう思っているのだろう。

 例えばだけど、恋人でも、家族でも友人でもいい。「なんか疲れているからマッサージして欲しい」と言うとしよう。相手は「いいよ」と答える。そこで、「じゃ、3時間お願いね」なんて言えるのだろうか。

 普通は言えない。

 言えないが、我々はそれを「仕事」としているので、お客様は気兼ねなく利用できるのかもしれない。しれないが、ほんの少し神経を疑う。

 逆に疲れないだろうかと私は思った。

 施術用のベッドで長時間同じ姿勢でいて、指圧やら揉捏やらを受けていて、疲れないだろうか。

 私はそんな長時間やられたくない。60分で充分だし、長くても90分だ。

 180分。3時間、休みなしでお客様の体を揉み続ける。

 イヤではなかった。

 お客様の神経をほんのちょっと疑ってはいたけど、滅多にないことだし、あまりうるさいことを言わないお客様だったのでほんの少し楽しみでもいた。

 時間になり、TMさんと受付で待っていた。

 時間になっても来ない。いつものことだ。

 ここで無断キャンセルだったらとんだ肩透かしだが、多分そんなことはないだろう。

 10分遅れでお客様の車が見えた。

 お店に入ってきて、「遅れてしまってすみません」と言われた。神経は疑っているが、常識のある人であることは知っている。(常識のある人が無断キャンセルするのかどうかは私は知らないが)。

 受付を済ませ、お客様は着替えをした。お手洗いには行かなかった。

 ブースにご案内し、挨拶をし、「特にお疲れな場所」を伺い、ベッドに横になってもらった。

「それではよろしくお願いします」始まった。

 プランは考えていた。じっくり、うつ伏せで120分やる。残りの1時間を45分左右の横向きをやって最後に15分仰向けでやる。特に難しいとは思ってなかった。

 首から始めた。

 左側の首をやり、肩をやる。次に右側を同じようにやって左側の肩甲骨まわりを施術する。

 思っていた通り、首、肩、肩甲骨、腕、手、だけで60分かかった。これだけじっくりやるのはなかなかない。

 そこから背中、腰、臀部をやっていった。

 足に時間をかければもっと時間稼ぎができたがあとで横向きでも仰向けでも「足」をやるのでそこは簡単な施術にした。

 きっちり120分うつ伏せをやった。

「それでは横向きになってください」

 お尻まわりから始め、足をやり、腰をやり、背中、肩、首をやっていく。

 特に苦労はなかった。

 反対側もやる。

 きっちり左右やったら最後は「仰向け」だ。

 少しストレッチを加えようと思った。さんざん指圧やら揉捏やらばかりだったので、最後くらいちょっと違ったものがいいだろうと思ったのだ。

 足のストレッチをし、多少指圧を加えて、腕のストレッチをする。

 タイマーをみると、あと5分になっていた。ほんのちょっと、感動的である。

 最後に鎖骨下筋をほぐし、首をやって、頭をやる。

 きっちり、180分、完了。

「それではお時間になりましたのでゆっくり起き上がってください」

 仕上げをして、終わる。

 お会計はご一緒で、二人合わせて二万一千円を超えていた。それだけあったらマンガがいくら買えるのかちょっと計算してみた。30冊以上は買える。

 お見送りをする。

「終わった」ベッドメイキングをしながら、ちょっとした達成感を味わう。

 控え室に戻る。TMさんと無事に施術が終わった喜びを分かち合う。

「もうこれで仕事納めだねぇ」

「ですねぇ」まだ仕事は終わりではないが、大きな仕事はもう他にはないので、気持ち的にはこの180分を終えたことで仕事納めなような気持ちになっていた。

 バッグから煙草を取り出し、外に出た。

 一服すると、控え室へ戻り、バッグから読みかけの本を取り出して床にしゃがんだ。

 あとは上がり時間までのんびりしようと思った。

 Twitterを確認し、小説の続きを読んだ。

 ありがたいことに、その後のご予約は入らなかったので心ゆくまでのんびりできた。

 4時になり、上がった。

 仕事が終わったらご褒美に焼き鳥とスイーツを買おうと決めていた。

 お店から一番近くのコンビニに寄る。

 「合鴨串」と「クリームチーズのオムレット」を買った。

 イートインスペースで食べる。美味しい。

 車に乗り込み、音楽を掛けて帰路についた。

 大抵いつも、仕事終わりの帰路は「今日のブログは何を書こうか」考えている。

 いろいろ考えてみたけれど、特に思い浮かばなかった。毎日書いていると、ネタが尽きてくるのである。

 いつも寄るコンビニで休憩をする。

 煙草を吸う。やっぱりブログのネタが思いつかない。

 まあいいやと思った。

 すっかり日が暮れた空を眺めながら「同じ日はない」ということを感じていた。

 同じような日はあるが、全く同じ日というものはこの世に存在しない。

 2021年の12月28日は一回きりだ。

 毎日が、一回きりなのだ。

 すべてが新しい。

 私は「パパ」と言って歩み寄ってくる娘の写真を撮った。

「何で撮るの?」と聞いてくる。

「今を残したくて」そう、私は答える。

 もちろんそれは、想像だ。

 

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