落とし穴

雑文

 随分、慣れたと思う。

 レストランで働きはじめて2ヶ月が過ぎた。

 ホールでの研修も最終段階にきている。

 今日は土曜日で、忙しくなる可能性があった。

 いつもそうするように、職場のドアを開ける前に神様にお願いする。

 忙しいのは、嫌だのだ。

 ポジションは「アフターTR」だった。

 アフターのトレーニング。

 アフターとは、前にも書いたけれど、お客様のテーブル状況と伝票を把握し、料理を出すタイミングをコントロールする役目である。

 ホールの業務の中で一番難しい。

 頭を使う。

 常にいろんなことに気を配ってなければならない。

 開店は11時。

 ご予約は2件。

 開店と同時にドドっとご来店がありテーブルが埋まっていった。

「む。忙しくなる予感」

 む、と思った。

 4人で回す。

 バタバタしていたので晴美さん早く来ないかなーと思っていた。

 ところが、来店はそこでピタっと止んだ。

 テーブルは埋まっているが、料理はほとんど提供していて、ただお客様がまったりしているだけだった。

「暇だね」と石さんが呟く。

 12時を越えても晴美さんはやってこなかった。

 どういうことだろう。

 でも、お店は暇だったので全然問題はなかった。

 だんだん、やることがなくなってくる。

 下げるお皿はないか探したり、ウォーターピッチャーを持って空いているグラスを探したりしていた。

 キッチンも暇なのか、ムサシさんやチーフのヒロさんがデシャップの片付けをしてくれていた。

 ますますやることがなくなっていった。

 つっ立っていたら準社員のえりさんに何か言われそうだったので「何かないか、何かないか」と探し回っていた。

 1時ごろに、晴美さんがやってきた。

 どうして遅刻したのかは分からなかったし、特に聞きもしなかった。

 本当に暇である。

 お皿を下げてきて、洗い場に出しているときだった。

「しょうちゃん」とえりさんに呼ばれる。

「アフターなんだから伝票ちゃんと見て! これ全部お客様から言われたものだから」

 あ! と思った。

 僕はすっかり伝票のことなんて気にもしていなかった。自分がアフターであることすら忘れてしまっていた。

 おおおおおおおおおお、怒られてしまった。

 それまではまったく問題なかったのに、油断していたばっかりに落とし穴に落ちてしまったようだ。

 そんな大事なことすら忘れてしまう自分の脳力に呆れた。(ちなみに昨日はユニフォームを持って帰るのを忘れたのだ)。

 うっかりである。

 それからは伝票に気を付けながらホールを回っていた。

 暇だったので、それ以降は問題なく過ごすことが出来た。

 上がったのは3時半である。

 テーブルはすべてバッシングしてあるし、デシャップも片付いている。

 まったくやることがなくて紙ナプキンを折っていたのだ。

 挨拶をして控え室に上がる。

 えりさんと晴美さんが何かヒソヒソ話している。

 僕は帰り支度をして煙草を吸った。

 Twitterを確認して煙草を吸い終えたところで晴美さんが「あ、しょうちゃん持ってきたよ」と言った。

 待ってました。

 実は先日B’zのベストアルバムがあったら貸して欲しいと頼んでいたのだ。

「ウルトラソウル入ってるから。3枚組みで、DVDも入ってるから見てね」

「やったー! ありがとうございます」

 楽しみである。

 挨拶をして、お店を出る。

 雨が降っていた。

 小雨なので、傘をささなくても大丈夫。

 車に乗り込んで、家に帰る。

 あとは、明日一日頑張れば休みだ。

 毎日これくらい暇だったら良いのに、と思った。

 いや、暇過ぎると困るのでもう少し入るくらいが丁度良い。

 しかし、本当に油断していた。

 明日は気を付けよう。

 今日もお疲れさま。

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