災難

雑文

 異変に気づいたのは信号で止まっていた時だった。

 車がいやに揺れていた。不穏な揺れだった。

 嫌な予感を抱えながらも少し様子を見てみた。

 何かがおかしい。あきらかに、何かがおかしかった。

 掛けていたオーディオの音楽を止め、更に様子を見てみた。

 嫌な予感だけがする。

 また信号で止まって、更に揺れを感じていた。少し焦げ臭いかもしれない。

 青になり、走ろうとしたら「力が伝わっていない」感じがした。

 アクセルを踏んでも車がいつものように動いてくれないのだ。

 まずいな、と思い、ちょうど目に入ったガソリンスタンドに寄ってみた。

「何か、調子が悪いんです。見ていただけますか?」スタッフさんにそう言い、「でしたらこちらに止めてください」と言われたときにはエンジンが止まってしまった。

 警告灯は光っていない。一体何が悪いのだろう。

 スタッフさんに任せて休憩室で待った。

 煙草を吸い、缶コーヒーを飲んだところで呼ばれた。

 どうやらオイル漏れのようだった。

 いろいろと聞かれた。点検はいつしたのだとか、オイル交換はいつしたのだとか。

 今の状況は非常に悪く、もしこのまま走っていたら炎上する危険性があると聞かされてヒヤッとした。

 スタンドに寄って良かったと思った。

 どこで漏れているのかを調べなければならないらしい。

 予算を聞いたら、「3万円からですね」と言われた。

 む、と思った。

 場合によっては何十万かかかるかもしれないということだった。

 ため息が出た。

 工場に持って行って点検してもらうことにした。無料で代車を貸してくれるとのことだった。

 1時間くらい待てば良いらしい。

 待ってみた。

 待っているあいだに、再び呼ばれた。

 スタッフさんがいろいろチェックしてくれていた。

 その結果を聞いて、僕の眉間は段々シワが寄っていった。

 タイヤ、バッテリー、冷却水、ATオイル、その他いろいろ、が、駄目になっているらしい。

 僕の表情が硬くなっていく。

 放っておくと、部品が駄目になってしまって高い修理代を払わなければならなくなってしまう危険性があった。いま、オイルなり細かい部品などを交換すればそのリスクは避けられるという。

 ちなみに、タイヤは2本替えるより4本セットで買ったほうが安いらしい。

 つい1週間前にフロントのタイヤを2本替えたばかりなのにと、陰鬱した気持ちになった。

 安物買いの銭失いである。何なんだろう、この災難は、と思った。1万4千円を捨てたようなものだ。

「とりあえず全部お願いします」と僕は頼んだ。

 見積もりを出してもらったら12万だった。

 頭が真っ白になる。

 その12万プラスエンジンオイル周りの費用がかかるのでとんでもない出費になりそうだった。

 ちなみに所持金は千円しかない。貯金なんて、ない。

 休憩室に入り、煙草を吸った。

 茫然自失である。

 どうやってこのお金を工面するのか考えた。

 なんというか、これは神の仕業に思えてならなかった。

 先日、僕は臨時収入があったので17万全部使って「いままで欲しかったけど買えなかったもの」などを買った。

 贅沢といえば贅沢である。

 +だ。

 だけど、その+のバランスを取るかの如く先日のパンクなり失恋なり今日のオイル漏れなりマイナスの出来事が身に降りかかっている。

 分不相応なことをした罰が与えられたのかもしれない。

 僕の人生に於いて、お金に困るのは大体いつも10万か20万、多くても50万くらいなのだ。

 つまり、それをどう工面するかが問われているのである。

 ときには親から借り、ときには消費者金融から借り、ときには横領をし、そのときそのときで手を打ってきた。

 この、「ちょっと困る額」というのがポイントなのかもしれない。

 いきなり何百万とか何千万を請求されるわけではなく、何十万単位なのだ。

 多分、神様からの試練なのだろう。

 そしてまた、「どのように生きていったら良いのか」が示唆されているように思える。

 勉強になる。

 茫然自失となってしまったが、もう災難は降りかかってしまったのだ。

 怪我をしたわけでもないし、廃車になったわけでもない。もちろん死んだわけでもない。

 うん。まったく、人生とは、と、思う。

 兎に角、なんとかしなければ、ならない。

 今日は疲れた。

 

 

 

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