書評#18『はじめての夜 二度目の夜 最後の夜』

書評
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はじめての夜 二度目の夜 最後の夜

 書評#18は村上龍さんの小説『はじめての夜 二度目の夜 最後の夜』です。

 私はこの小説が好きで十回以上は読んでいます。

 物語を要約すると「(おそらく)作者自身がモデルである主人公の小説家ヤザキが中学時代の同級生であり初恋の女性アオキミチコと再会しディナーを交わす」というものです。(「ヤザキ」という人物はたしかほかの小説でも出てきていたはず)

 章のそれぞれが料理ごとに書かれており、その料理を食べながら中学時代のエピソードが語られるというものです。

 村上龍さんは本当に文章がうまい。

 フランス料理(たぶんフランス料理だろう)なんて私は食べたことがないのに小説を読んでいるとまるで実際にそのコース料理を食べたかのような気分になってしまう。

 本文の中で初恋の相手であるアオキミチコがこんなことを言う。
「何か大切な感情をね、そのことを知らない人にもわかるようにするってこと」と。
 そういうことをするヤザキのことが好きだという。

 文章を引用するにはもっとほかのところがあったろうにと思うけれど、今回読んだ中ではこの一文にぐっときました。

 小説というのはそういうことなのかもしれないと私は思ったからです。

 大切な感情を、そのことを知らない人にもわかるようにする。

 村上龍さんは本当にそういうところが巧い。

併せて読みたいおすすめ本

 私はこの小説とセットで同じ村上龍さんの小説『69』を上げます。

 今回ご紹介した小説『はじめての夜 二度目の夜 最後の夜』が村上龍さんの中学時代の自伝的小説なら『69』は高校生のころの自伝的小説です。

 小説を読んでゲラゲラ笑ったのはこの小説が初めてです。めちゃくちゃ面白いです。映画化もされています。

 こちらも読まれるとより深く村上龍さん(あるいはヤザキさん)のことを知ることができます。

驚いたこと

 久しぶりにこの小説を読んで私は驚きました。

 同じ本を何度も読み返すと初めて読んだときとはまた違った感想を得られるところが読書の醍醐味とも言えます。

 私がこの小説を初めて読んだのは大学生のころで、まだ十代です。

 そのころは「この人(村上龍)かっこいいな。こういう大人になりたいな」と憧れを抱きました。

 その後『限りなく透明に近いブルー』や『コインロッカーベイビーズ』など村上龍さんの小説やらエッセイやらをかたっぱしから読みました。小説ではなくても『あの金で何が買えたか』とか『13歳のハローワーク』あるいはテレビの『カンブリア宮殿』など、とにかく村上龍さんを追っていました。

 気が付けば私は四十代になり、とうとう小説の中のヤザキと同年代になりました。

 するとどうでしょう。あのころ「かっこいいな」「こういう大人になりたいな」と憧れていたヤザキさんが「なんかもう拘り強すぎて面白いやつ」くらいに思えるようになりました。

 また、十代のころは「そうだよね」とか「目から鱗が落ちた」とか「尊敬する」と思っていた考え方なども今では「たしかにそういう考え方もあるけどちょっと偏りすぎだし一種の傲慢でもある」という見方に変わっていたり、単純に「それは違うよ」と思ったりするようになりました。

 そのことにとても驚きました。

まとめ

 おそらく私はこの小説をまた何年後かに読み返すと思います。何度も読み返してしまいたくなるような珍しい本だと私は思います。

 村上龍さんの小説は多種多様で読みやすいものもあればすごく読みづらいものもある。

 そういう部類でいえば『はじめての夜 二度目の夜 最後の夜』はとても読みやすい小説です。

『はじめての夜 二度目の夜 最後の夜』私が十代のころに憧れていた四十代の大人の物語。
 今では「なんだか面白い人物だ」と思える同年代の物語。
 そして、たとえば二十年後、六十代になった私はこの小説を読んで何を思うだろうか。

 期待を込めて本棚にしまいました。

 

 

 

 

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