書評#14『母性』

書評

はじめに

 私はあまり頭がよくありません。

 特に記憶力に自信がなく、すぐに物事を忘れてしまいます。

 それは読書にも言えることで、本を読んでもすぐに忘れていってしまいます。

 難しい本は理解できません。

 そこで、書評を書くことにしました。

 ひとつは自分のため、もうひとつは私のように本を読みたいけれど自分に合った本は何かないだろうかと探している人のため。

 実際に私が読んでみて、「これは良かった」「これはいまいちだった」といったような感想を発信していきたいと思います。

 何か参考になれば幸いです。

『母性』

 書評第14冊目に選んだのは湊かなえ(みなとかなえ)さんの小説、『母性』です。

 この本を読むことになったきっかけはただ単に叔母から貰ったものだったからです。

 湊かなえさんという作家さんは知っていました。前に『告白』を読んだことがあったし、その映画も観ました。

 詳しく知りたい方はこちらをどうぞ⇒湊かなえ

 母性。男である私にはまったく関係のないことですが、いったいどんな小説なんだろうという期待がありました。それほど、『告白』での印象が強かったからです。

 読みました。

 率直な感想は、「壮絶」です。

 「壮絶」という言葉は少し意味が違ってきてしまうのかもしれませんが、真っ先に思った言葉は「壮絶」でした。

 もし他の言葉を当てはめるなら「惨憺」でしょうか。「悲惨」といえなくもないです。

 冒頭を少し引用します。

ーーー10月20日午前6時ごろ、Y県Y市✽✽町の県営住宅の中庭で、市内の県立高校に通う女子生徒(17)が倒れているのを、母親が見つけ、警察に通報した。
 ✽✽署は女子生徒が4階にある自宅から転落したとして、事故と自殺の両方で原因を詳しく調べている。
 女子生徒の担任教師は「まじめでクラスメイトからの信頼も厚く、悩んでいる様子も特に見られなかった」と語り、母親は「愛能う限り、大切に育ててきた娘がこんなことになるなんて信じられません」と言葉を詰まらせた。

 と、いう新聞記事のような記述からはじまる。

 小説は、「母性について」「母の手記」「娘の回想」という三つの文章が順番に書かれているという構成である。そして『リルケ詩集』が引用されている。

 「母性について」は新聞記事を読んだ高校教師の視点で書かれているもので、「母の手記」は事件の女子生徒の母親の視点、「娘の回想」は事件の当事者である女子生徒の視点で書かれているものである。

 別々の視点であるが、時系列は歪んでいなくてしっかりと把握できる。

 事件の女子生徒が生まれる前の母親の結婚にまつわる話、母親の母の話。そして女子生徒が「事件」に及ぶまでの成長過程が段々と記されていく。

「どんなお話?」と聞かれると言葉に詰まる。「母性」というタイトルなので、母性についてのお話なのだけれども、それは最後の最後まで読み切るまでしっくりこなかった。

 どちらかというと「愛」とか「家族」について書かれたもののように感じました。

 母から受けた愛。人格形成。娘に与える愛。娘から見る母親の愛。家族というもの。

 非常に難しいテーマでした。

「これが書けたら、作家を辞めてもいい。その思いを込めて書き上げました」と湊かなえさんは語る。

書評

 総合評価:✩✩✩✩✩
 読みやすさ:✩✩✩✩✩
 物語に引き込まれる:✩✩✩✩✩
 人物:✩✩✩✩✩
 感動する:✩
 他の作品も読みたい:✩✩✩
 (MAX:✩✩✩✩✩)

 です。

 読みやすさ、星5です。読みやすい。易しいのではなくて、文章がしっかりしていて情景が目の前に浮かんでいるようでした。しっかりと時系列にそっていたので滞りなく読むことができました。

 物語に引き込まれる、も星5です。これは、「物語」に引き込まれるというよりは、物語であることを忘れさせてくれるほどリアリティを感じさせてくれる小説でした。

 生々しい。その世界に引き込まれていきます。「続きが気になるから読む」のではなくて、淡々と映画でも見ているような感覚でした。

 人物、星5。湊かなえさんは執筆する際にまずはじめにしっかりと「キャラクター設定」をされるそうです。作られたキャラクターではなくて、実際にいる人間が描かれているようでした。素晴らしい。

 感動する、は星1。この小説は感動したり涙を流すようなものではないような気がします。考えさせられる部分もありましたが、何て言うんでしょう。本当にただ淡々とそこにいる「人間」を見ているようでした。琴線に触れるとか、心に染みる、といったものでもありません。この小説を読みながら「自分はなんて恵まれているんだろう」なんてことを思ったりもしました。「惨憺」とか「悲惨」という言葉を使いましたが、例えば戦時中の話や外国のスラムの話のように「残虐な話」かというとそうではなくて、「日常の中に潜む人間という生き物の姿の一部」を垣間見ているようでした。これは「低評価」なのではなく、「感動するお話ではないよ」という意味での星1です。

 他の作品も読みたい。星3。普通に読んでみたいです。めっちゃ読みたいというわけではないのですが、書店で見かけて気になるようだったら「湊かなえさんだったら読んでみよう」という気になるだろうということです。星4にするか迷いましたが、まあそれはなんとなくです。

 以上を踏まえて、総合評価は星5つです。

 大変良い作品でした。読んで損はないです。読んで良かった。

まとめ

 『母性』。母性本能という言葉がありますが、その言葉によって苦しむ女性も居るのではないかなと感じました。

 子どもは親から「無条件で愛されたい」と求めています。でも、親が子どもを無条件で愛せるのかどうかは、おそらく人それぞれなのでしょう。

 この小説を読んでみて、「悲しいな」と感じました。例えば母と娘。心の中では、「繋がりたい」と思っているのに、その繋がりが確固としていない不安定さ。

 親に愛されたいがために頑張る。というのは私でも共感できるところでした。

 いやあ、何というか脱帽です。素晴らしい小説でした。

 読んで良かったです。

 参考になりましたでしょうか。

 

 

 

 

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