たった一言二言話すだけでよかったのだ。
だけどその願いは叶わなかった。
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仕事が終わったあとにコンビニに向かう。
駐車場に車を止め、気持ちを落ち着けるために一服する。
煙草を吸い終えると店内に入った。
空気が違うことに気が付く。
だけど確定したわけではなかったので店内を確認しながらトイレに向かった。
用を足して、髪の毛をセットする。
トイレから出たらいつも買う缶コーヒーと今日はレモンティを加えてレジに持っていった。
レジには店員さんが2人居た。
どちらも知っている顔だったが、笹原さんではなかった。
おかしいな、と思った。
いつもなら土曜日には居るはずなのだ。
だけど、居ない。
これは一体どういうことなのだろう。
もう商品は持ってきてしまったのでそれを戻すわけにもいかない。
レジでお会計をした。
去る。
車に乗り込み、顎に手を当てた。
時刻は4時半だった。
笹原さんは大体5時半以降に居る。だけど、土日はそれよりも早い時間に居るのだ。
だけど今日居ないということは休みなのだろうか。
僕は少し考えたあとに1時間ほどドライブすることにした。
もしかしたら5時半以降には居るのかもしれない。そう考えた。
車を走らせながら、あまり考えたくない想像をしていた。
そしてまた、不安でもあった。
明日、大切な作戦を実行する。
今日はその作戦の前にワンクッション置いておきたかったのだ。
一言二言話して、その表情を見ておきたかった。
そうすることで、明日の作戦がより自然になり、成功率も上がるような気がしていたのだ。
だからなんとしても今日、会いたかった。
ため息が出る。眉間にシワが寄る。
いま、どこで何をしているんだろう。誰と一緒なのだろう。そんな想像ばかりが頭の中を駆け巡っていた。
1時間ばかり車を走らせ戻ってきた。
少し余裕を持たせたかったので煙草を1本吸った。
店内に入る。
真っ先に目に入ったのは黒髪の女の子だった。
トイレに行くことはなく、コールドショーケースからノンアルコールビールを取り出した。
レジに持っていく。
お会計をして、その場を去った。
休み、だったのだ。
いつも居るはずなのに、休みなのはどうしてだろう。
もしかして体調が悪いのだろうか。
コロナも流行っているし、心配になった。
暗い気持ちのまま、家に帰ることにした。
明日、大切な作戦を実行する。
そのためのワンクッションが、今日出来なかった。
想像している未来に影が差し込む。
どうか、上手くいってほしい。そう願うけれど、不安は拭い取れなかった。
少しでも上手くいかない状況を目にすると、不安な想像ばかりが浮かんできてしまう。
いまどこで、誰と、何をしているんだろう。
明日は、会えるのだろうか。
もしかしたら僕は嫌われてしまったのだろうか。僕と会いたくないためにシフトを変更したのだろうか。
嫌な想像が膨らむ。
でも、プラスに考えるのなら、この「上手くいっていない状況」が明日の良い結果を生むのかもしれなかった。
神様は基本Sで、いたずら好きなのである。
小説家でもあり、演出家でもある。
なんでもかんでも上手くいくことを好んではいない。
人生をドラマティックにするために、神様は嫌がらせもときにする。
なので、今日の「空振り」は、明日の成功への「前振り」なのかもしれない。
今日が雨なのも、明日晴れるためにあるのかもしれない。
出来れば、そうであってほしい。
明日の今頃、あるいは明後日のうちに、明暗が分かれる。
明るい未来を、僕は見たい。
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