面接落ちた

雑文

 幻想、だったのだろうか。

 定職に就くこと。やりがいのある仕事をして、日々、幸せに生活していくこと。

 多くは望んではいない。仕事をして、それにやりがいを感じ、愛する人と日々を暮らしていく。

 それだけでよかった。

 それだけでよかったのに、それはまるで幻想のようであった。

 今日、僕は会社の面接に行ってきました。

 結論から述べると、「落ちました」。

 落ちたというよりも、「合わなかった」と言ったほうがいいのかもしれない。

 企業が求める人材と、僕が求めていた就職先が、合っていなかった。

 それが分かっただけでも収穫だと言えなくもないけれど、それなりに落ち込んでいる。

 僕は面接を前に、ずいぶんと舞い上がっていた。

 求人広告の内容はこうだった。

  • 「社会貢献がしたい!」
  • 「人の役に立ちたい!」
  • 月給20万円+歩合給
  • 午前9時から午後5時まで
  • 営業経験者大歓迎
  • 未経験者大歓迎
  • ノルマは一切ありません
  • 土日祝日休み、GW、夏季、年末年始休暇あり
  • 社会保険完備
  • 車通勤可

 保険コンサルタントの仕事だった。保険のお仕事は未経験だったけれど、「未経験者大歓迎」とあるし、なにより、「社会貢献がしたい」「人の役に立ちたい」というコンセプトに惹かれた。

 それに、給料面でも申し分ないし、時間も都合がよかったし、車通勤もできる。

「こんないい求人はない!」と思っていました。

 僕は、この面接に挑むために長かった髪を切り、黒く染めました。

 履歴書と、職務経歴書とは別に手紙も書きました。どうしてもその会社に入りたかったのです。

 面接は午後1時からでした。

 時間よりも15分前に会社に到着しました。

 小さな部屋に通される。

「お飲み物はコーヒー、紅茶、緑茶とありますが」と聞かれたので僕は「緑茶でお願いします」と答えた。

 少しして、面接担当者が現れた。名刺を受け取る。

 驚いた。

 社長だった。

 社長直々の面接だった。

 事前に会社のサイトを調べていたのですぐに分かった。本社は横浜にあるのに、わざわざこの面接のために静岡まで来たということなのだろうか。恐れ多い。

 挨拶をし、履歴書と職務経歴書を渡す。

 いろいろと質問された。

「ずいぶんいろんなことをされていますね」

 僕はいままでに、22業種もの仕事を経験している。

 アルバイトと、正社員、すべて含めて職務経歴書に書いてきた。

 社長はその中で「いまやっている仕事」と、「自営業」と、「正社員で働いたもの」について訊いてきた。

 僕はそれに答える。

 どんな仕事をし、どうして辞めたのかを話した。

 およそ、その理由がマイナスな印象を与えることは承知していた。

  • 売上が伸びずに辞職した。
  • 試用期間に結果が出せずクビになる。
  • 営業のノルマが達成できずにクビになる。

 ほとんどいい印象なんて持たれない。でも、ウソを言っても仕方がないなので、僕は正直に言った。

 大切なのは「これから」だと思っている。実績はないけれど、これから実績を作っていけばいい。

 面接も中盤にさしかかり、「何か質問はありますか?」と聞かれたので、「必要なスキルは何ですか?」と訊いた。

 社長は細かく説明してくれた。合計5つの資格が必要らしかった。そのうちの4つは研修期間である2ヶ月のうちに取ってもらうのだと言った。

 僕は、勉強するのは全然構わなかった。むしろ、成長できるチャンスだと思っていた。

 

 ところが、一瞬で場の空気は変わった。

 場の空気が変わったのは社長のこの発言だった。

いま、あなたの友人知人で、訪問できるところが100件ありますか?

 その数字に僕は驚いた。

 面接を受けた保険会社の勧誘方法は受身ではなく、訪問をするスタイルだった。訪問をするスタイルだということは全然構わなかった。いままでもそういった営業の経験はある。ある程度は覚悟していた。

 とことが社長の発言は僕の覚悟を超えていた。

「まずは、親戚を除いて、友人知人に契約を取ってもらいます。それは保険業界では当たり前のことです。なので、まずはいま、100件訪問できるのかどうかを聞いています。それがないなら、残念ながら不採用となります」

 言葉は違うけれど、そんなようなことを社長は言った。

 僕には、友人なんかいない。知人はいなくはないが、いきなりそれで保険に入ってくれる人なんてまったく思い浮かばなかった。皆無である。

 僕はそのことを正直に話した。

「みんなそういう」と社長は言った。そりゃそうだろう、と僕は思った。

「それがあるのなら、私は次の話をしたい」と社長は言った。

 ……ない。ないけれど、ここで引き下がったら面接は終わりになってしまう。すでにもう終わっている空気だったが、僕は伺った。

「いま私には友人知人はいませんが、例えば新規で開拓していくことは不可能なのですか?」

 社長は、「不可能」だと言った。なんだそれ、と僕は思った。

「まずは友人知人に契約をしてもらう。それができないようなら、この先開拓していくことは不可能だ」

 鬼か、と僕は思った。思ったが、一理あった。友人知人におすすめできないような商品を他のお客様におすすめすることなんて無理だし、それが契約につなげることなんてもっと無理だ。

「終わった」と僕は不採用であることを認めた。

 その後、少し雑談をした。

「もし保険業界で働きたいのなら、『保険の窓口』のような受身のお店で働いたらいい」

「せっかくいろんな経験をしているのだからそれを活かせる仕事を見つけるといい」

「リクルートに登録してみるというのも手だ」

 そんなようなことを社長は言っていたけれど、ほとんど聞いてはいなかった。不採用だということが、それなりにショックだったのだ。

 面接の中で、社長は何度も「厳しい」という言葉を使っていた。保険業界の厳しさ、そして社会の厳しさを僕は目の当たりにした。

 ようするに社長は「即戦力」を求めているらしかった。あるいは、すぐに契約に繋がる「畑」が欲しいのかもしれない。

 どちらにしろ、要件を満たしていない僕は不採用なのだ。

 面接は終わり、社長が外のエレベーターまでお見送りをしてくれた。

「がんばれ」と、社長は言った。

 励まされている。なんだかよく分からない。

 とにかく、今日の面接は「終わった」のだ。

 なんだか、その会社に必要とされなかったというよりは、「社会」そのものから僕は必要とされていないというような悲しい心境になった。

 とにかく、次を探さなければいけない。

「営業職はよそう」と僕は思った。

コメント

  1. ふにゃにゃん♪ より:

    『100件ありますか?』で、マジかっ!?て声出てしまいました。
    しかしそれは保険の営業職(とその会社)にとっての必要十分条件なだけで、それが無いと言うだけで『「社会」そのものから僕は必要とされていない』と思う事は無いと考えます。
    世の中には多種多様な仕事がありますし人との出会いと同じくある意味で『縁』のものだとも思いますので、変に焦らずりょうきちさんに合った仕事(会社)に巡り逢うまでじっくり構えてはとも思います。
    終の仕事にと思っているのなら尚更、無理せず思い詰めず気持ち肩の力を抜いて気長に頑張って下さい。
    長文、失礼しました。

    • katsumashota katsumashota より:

      ふにゃにゃん♪さんコメントありがとうございます。なんだかいつも見てもらってる気がします。
      読んでくれてありがとうございます。そうですね。焦らずじっくりと見つけて行こうと思います。
      がんばりますヽ(´▽`)/

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