争わない生き方

雑文

 好きな女の子がいて、その子が僕以外の男とセックスをしているのを見たとき、なんとも言えない敗北感を味わう。

 その子のことを想い、オナニーをする。だけど、「あんあん」と感じていたのは僕のちんぽではなくて、あいつのちんぽだったのだ。

 おまんこを濡らしてあいつのちんぽを受け入れて喘いでいる。

 耳に焼き付いた声を頭の中で鳴らしながらちんぽをしごいているうちに射精をする。

 どうしようもない虚しさとともに、僕の精子は行き場を失ったままゴミ箱へと捨てられる。

「あんたの精子なんていらないわ」そんな声が、耳に聞こえる。

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 世の中から、争い事はなくならない。

 じゃんけん、トランプ、麻雀、スポーツ、ゲーム、内乱、紛争、戦争、あるいは恋愛。

 勝った者は何かを得て、負けた者は何かを失う。

 勝てば官軍、負ければ賊軍。

 だけどね、最近僕は「争わない生き方」をしようと思うようになった。

 負ければ悔しいのかもしれないけれど、勝ったところで嬉しくもないのかもしれない。

 だったら最初っから争わない。

 それを「ふぬけ」と言うのかもしれない。

 まるでゆとり教育の「手をつないでみんなでゴールしようね」と揶揄されるのかもしれないが、それとこれとは違う。

 ベストは尽くす。ただ、争わない。それをゲームの上で行うのなら勝ち負けはつくのだろうが、それはただの結果であって、嬉しくも悲しくもない。

 自分がどれだけできるかを試すことが大切なのだ。

 孫子の兵法にも、「戦わない」という考え方がある。

 兵法なので、「勝つため」の考え方だ。だけど「戦わないで勝つことが一番だ」と言っている。

 詳しく知りたい方は自分で調べてね。

 「無敵」という言葉は、「敵を圧倒させるほどの強さ」を示す言葉ではなくて、「敵を作らない強さ」なのだと思う。

 「敵」が「無い」ので「無敵」だ。

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 僕の恋愛は、甘い思い出も沢山あるけれど、苦い思い出もある。

 それは僕が30歳くらいのころの話で、ある年下の女の子のことを好きになった。

 同じ職場の同僚だった。

 一緒の時間帯に入っていて、仕事が終わったあとに喫煙所で二人して話をするのが習慣だった。

 そのとき彼女には恋人がいて、その恋愛相談に乗っていた。

 よくある話で、恋愛相談を受けているうちに相手のことを好きになってしまったというやつだ。

 彼女の方も僕に対して好感を抱いていた。

 何かが崩れたのは後輩の登場だった。

 後輩ともシフトが重なった。

 僕と彼女と後輩で働くようになった。

 後輩は分かりやすい性質(たち)で、すぐに彼女のことが好きなのだと分かった。

「好きな人の役に立ちたい」その想いはよく分かる。僕もそうだったし、彼もそうだった。

 僕は彼女をフォローしようと努めていたが、彼は彼女を楽させたがっていた。

 ことあるごとに彼女の仕事を彼がやるようになり、彼女はそれで楽になったので、仕事中にマンガを読んでいたりするようになった。

「それは違うんじゃね」と僕は思っていたが、何も言わなかった。言おうか迷っていたが、ずっと迷っていたままで、何も言い出せなかった。

 そのうち、仕事中に彼は彼女の「ごはん」を作るようになった。

 お店の食材を使ってだ。

「それは違うんじゃね」と僕は思ったが、何も言わなかった。「先輩も食べますか?」と言われたが、「いらない」と答えた。

 彼は12時あがりで、僕と彼女は翌3時までのシフトだった。

 彼が抜ければ「二人っきり」になれる。それに、仕事終わりに二人で談笑する時間もあった。

 だが彼は仕事が終わったあと、タイムカードを切った上で、まだ仕事をしていた。

 仕事をしていたというよりは、「彼女の仕事を代わりにやっていた」。

「それは違うんじゃね」と何度も思ったが、僕は何も言えないままでいた。とても葛藤していた。

 最初のころは、そのうちに彼も帰っていたのだが、次第に彼も3時まで居るようになった。

 二人っきりの時間なんてなくなってしまった。

 仕事終わりに喫煙所で談笑をする。僕と、彼女と、彼とだった。

 煙草を吸いながら、「てめー邪魔なんだよ」と僕は思っていたが、何も言わなかった。

 多分彼も、僕に対して、「てめー邪魔なんだよ」と思っているのだろうと推測していた。

「さて、どうしたものか」と僕は考えた。

 敵を知り、己を知ればなんちゃらと僕は考え、「記録」を付けることにした。

 LINEの言葉をすべてワードに書き写し、その日にあった彼女の行動と彼の行動と僕の心境をすべてワードに記録していった。

 彼が、わざわざ彼女の車の隣に駐車した。
 談笑の際に、彼女が座っている隣に彼は腰を下ろした。
 その日にあった会話、返答。
 彼が手伝った彼女の仕事。
 親子丼、スパゲティ、カレー、オムライス。
 彼女がネクタイを忘れた。彼が、ネクタイを、貸した。
 彼が、彼女の制服を持って帰って「洗う」と言い出した。彼女はそれを受け入れていた。
「今度ごはん食べにいこう」「うん、楽しみ」……来なかった。
 彼女がコンタクトを替えたがっていた。彼が彼女を車に乗せて彼女の家まで取りに行った。
 ツムツム……。

 フェアじゃない、と僕は思っていた。

 僕は彼のやることにケチをつけたことは一度もないし、邪魔をしたことも一度もない。

 だけど彼は僕からいろんなことを奪っていった。

「俺が! 俺が! 俺が!」という声が聞こえてきそうだった。

「あんた、邪魔だよ」と、彼が思っているであろうことは知っていた。だって、僕がそう思っているのだから。

 もともとは可愛い後輩だと思っていたのに、どうしてこうなってしまったのだろう。

 しびれを切らした僕は彼女に告白することにした。

「気持ちは嬉しいけど、わたし、職場恋愛はしない主義なの」

 そうか、と僕は思った。でも、それなら彼も彼女を手に入れることは出来ない。

 知らない男だったら構わない、だけどあいつにだけは取られたくない。

 神様は意地悪だった。

 ある日のこと、職場の控え室にお菓子が置かれていた。

 ディズニーランドのお土産だった。

 二人が休んでいたことは知っている。

 二人で、行ったのだ。

 そこから僕の中の何かが崩壊していった。

 僕はどうにもならない気持ちでその日を過ごした。元気がなかったのかもしれない。僕は、インカムから聞こえてくる彼女の声を無視した。

 しばらくして、僕の元に彼女がやってきた。

「あんたなんなの! いい加減にしてくれる?」

 あんた……???

 彼女に怒られたのも初めてだったし、「あんた」と言われたのも初めてだった。嫌われたのだと確信した。

 振られるだけならまだしも、嫌われる筋合いはないんじゃないか。

「職場恋愛はしない主義なの」って言ったのは、嘘だったのか。

 そういう言い方をして振ったのに、僕の目の前でそいつといちゃつくのはどういう神経をしているんだ?

 傷つかないとでも思ったのか?

 それとも俺は所詮「あんた」でしかなかったのか!?

 仕事が終わったあとに、とても酷いLINEを彼女に送った。

 なんて送ったのか、覚えていない。ひとつだけ覚えているのは、いままで名前で呼んでいたのを、敢えて苗字で呼んで、さん付けでメッセージを送ったことだ。

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 少し長くなってしまった。

 僕は争うことに疲れてしまったのだ。

 何が「敵を知り、己を知れば」だ。

 戦わなければ、傷つくこともなかったのだ。

 変なLINEを送ることもなかったし、嫌われることもなかっただろう。

 あいつに「勝とう」と僕は思っていた。勝つために、全力を尽くそうとしていた。それも、邪魔をせずにだ。

 だが彼は、僕からチャンスさえ奪っていったのだ。フォローする環境も、職場での協力も、二人っきりの時間も、すべて奪っていったのだ。

 共に戦う、のではなく、僕に戦う機会さえ与えようとしなかったのだ。

 フェアじゃなかったのはあいつの方なのに、どうしてあの子はあいつの元に行ったのだ?

 僕は神様を恨んだ。その子のことも嫌いになったし、後輩のことも嫌いになった。自分のことも嫌いになった。

 世の中のすべてのことが、嫌いになった。

 まあ、そんなことがあったのだ。

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 動物の世界は、弱肉強食だ。

 ライオンのオスが、別のオスとの戦いに敗れるとファミリーから追い出されてしまう。

 追い出されるばかりではなく、その子どもも殺されてしまう。

 メスはそれで新しいオスに発情し、より強い種を残そうとするのだとか。

 だけど人間はそういう動物的な強さだけに生きているのではない。

 まあ、経済力とか、知力とか、体力とか免疫力とかあるのだろうけど。

 僕は、誰かと争うことは辞めることにする。

 ただ僕は、精進していくだけだ。

 戦うことが好きな人は戦っていたらいいし、僕には関係がない。

 自分を楽させてくれることを愛情と思うのならそれもまたいいだろう。

 誰かを倒すことに強さを感じ、そんな男の精子が欲しいのなら存分にファックしていたらいい。

 もちろん時には戦わなければならない時もある。

 それは、誰かを倒すためでも、自分の力を誇示するためでも、何かを奪うためでもない。

 守るために戦う時だ。

 それにしても日本海海戦の勝利に貢献した秋山真之は凄いね。

 まったく本文の意図とは違うけど。

 

 

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